四谷の児童館・老人館(新宿区立本塩町区民福祉会館)

←正面外観           ↑前庭の彫刻:宇宙人(川村易作)

←2階フリースペース(図書コーナー)          ↑3階遊戯室
子供の遊び場が消えてしまったこと、高齢化社会につき進んでいること、新宿区でも顕著である。子供や老人にとって自宅界隈での生活空間はますます狭小化している。このスペースの充実は公共施設に求められる社会の要請であり、その一環としての計画である。本塩町区民福祉会館は、テリトリーの空白域であった四谷地区に、土地から新たに手当した新規の施設である。福祉会館の設置は、教養やレクリェーション、交流の場としての老人館、学童保育や児童の健全な育成の場としての児童館、という目的である。もとより行政主導の施設であるが、ここでは今後の運営の可能性を探ろうと、ボランティア専用のスペースも設け、地域と一体で取り組む活動も行っている。この建築は児童館と老人館が併設された福祉会館で、一部に災害時用の備蓄倉庫を持つ。敷地はJR四ッ谷駅から北に約300m、外堀通りから少し入った角地にある。通り側はビル化されているが、ここから奥は住宅地が広がっている。
オープンスペース
計画規模は、この敷地の許容容積率300%近くまであり、角地のため短辺方向にも道路斜線がかかるから、かなりの居室部分を地階に配置しなければならない。また公共建築として有用的なオープンスペースや、隣家との間の空間が配慮されていなければならない。このため配置計画や立体的な空間設定の段階で、どのようにすれば効果的なオープンスペースがとれるか、が課題となった。オープンスペースは内部空間の残りと考えると窮屈で伸びやかさがなくなる。特に地価の高い地域では、室内面積に押され、結局無くなってしまうことが多い。この設計では、次の項目をキーポイントにしてオープンスペースを獲得した。
@ オープンスペースも一つの建築空間として目的と形を与える。
A オープンスペースは、集中して配置する。
B 室内空間とひとつながりの広がりとして捉える。
これを空間化するため、次の手法に置き換えた。
『単純な二つの図形を重ね、そこに生じる形で内部空間と外部空間の設定をする』
具体的には図のように、3組の組み合わせを用いて平面を構成した。
◆正方形と正方形
●正方形と円
■長方形と波
この形状から次の空間的展開へ発展させた。
@ 地域環境への適合性
集中させて取ると目的性のあるオープンスペースを取ることが可能でなる。また周囲に圧迫感を与えず配置計画がなされ、特に北側での適用は隣地への日照確保に有効である。居室を地階へ配置しやすいので、工事費との兼ね合いで地上のオープンスペース獲得の自由度が高まる。
A 構造について
構造的によく用いられる形態の組合わせであるから合理的に考え易い。
B 内・外部空間の造形について
使い勝手による平面の積み上げでなく、図形に平面を刷り込んでいく方法なので、造形的に楽しい空間が作られる。この建築用途のように、日常の生活空間とは少し違った雰囲気にしたい場合、効果的である。
C 地階での有効性
ドライエリアと併せることにより、生活空間として精神的にも視覚的にも、十分な広がりと落着きが確保される。その上、街路の喧騒にも影響されない。
以上の考え方から地階へ延床面積の55%も配置して、円形の前庭と、全居室に充分な採光、通風、視覚的広がりを確保した。前庭は子供たちの遊びの空間であると同時に老人との交流の場、また備蓄倉庫と組合って非常時の基地になる。
ゾーニングとしては、落ち着いた空間を必要とする老人館を地下1階と1階、動的雰囲気をかいま見せたい児童館を2階と3階へ配置した。

【コメント:建築設計資料第76号より転載】
作品1/四谷の児童館・老人館
鈴木啓二/建築設計社のホームページ
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