柏木区民センター
↓正面外観

←特別出張所                ↑3F遊戯室

←保育園園庭           ↑保育園トイレ・沐浴室
新宿区では施設の活性化と土地の有効利用を図るため、特別出張所を核に施設の複合化を進めている。この建築は、特別出張所、地域センター、保育園、福祉会館の4施設の合築で、地域生活に密着した施設である。保育園が建っていた敷地を広げ、近くにあった特別出張所と、新たに地域センター、福祉会館(児童館・老人館)の用途を加え新築した。敷地は超高層ビル群から間近にあるが、青梅街道から北へ300Mほど入った前面道路が4.2mほどの住宅地域にある。北側斜線が5mから立上がり、日影規制も3時間2時間に敷かれている厳しい条件である。前面道路側20mは近隣商業(日影4-2.5時間)、奥側38mは第2種住居専用地域である。
基本的な空間構成は、階別によるゾーニングとした。高さ制限でそれぞれの階高が十分取れず、また用途が異なり部屋の広さや設備も違うため技術的には4つの用途を4棟で建てたほうが納まりがよい。しかし、各用途ワンフロアーの方が使い易い規模と機能であるため、縦の関係を慎重に検討し、地階に地域センター、1階に特別出張所、2階保育園、3階福祉会館と用途を水平に積み重ね合せた。この構成により、前庭に囲まれた開放的な特別出張所、緑や池に囲まれた広幅の階段で前庭からダイレクトにアプローチできる地階地域センター、人工地盤状であるが日照を確保した2階レベルで園庭と保育室がひと繋がりにの保育園、ゆったりとで超高層街を眺めて過ごせる日当たりのよい福祉会館バルコニー、などの組立てが可能になった。
利用者の目的や年齢層、時間帯が多様なため、設計上、難しかったのは安全性を確保しながら複合のよさを引き出すことであった。敷地に対して比較的大きな規模であり、動線が複雑にならないようできるかぎり単純化した構成で、各ゾーンが交流できるようにした。意匠計画では、地域性と用途を考慮し次の項目をキーワードに進めた。
○ 近隣との調和
○ 愛着の増す建築
○ オープンスペースの積極利用
○ 各施設の独立性と融合性
○ 老幼にもわかりやすい安全な動線
○ 全ての居室への自然光、特に保育園・福祉会館への充分な日照通風の取り入れ
これらの空間のつくり込みとして、棟を方位軸に設定、本塩町福祉会館で用いたオープンスペースとドライエリアの作り方を用い、屋根面まで含めた細かなオープンスペースの利用、前庭、通り庭、坪庭を組み込みながら煉瓦やアートワークを取り入れて組み立てた。
最後に住民参加による施設計画を紹介しよう。この地域では、以前より特別出張所管内をテリトリーにコミュニティ活動が盛んである。この施設の竣工後、このメンバーが自主管理運営委員会として地域センターの運営を担うことになり、設計時点から所要室など基本的な設計条件を含めて打合わせを重ねた。この種の建物はややもすれば与えられた施設として利用者の愛着も薄く、結果として使い方も荒くなりやすい。ところが、こうした経緯を持つ建物は「私たちの施設」という自覚が強く、活発にそして大切に利用されることであろう。

【コメント:建築設計資料第70号より転載】
作品2/柏木区民センター
鈴木啓二/建築設計社のホームページ
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