日本国政府アンコール遺跡救済チームミッション/王立プノンペン芸術大学/考古+建築学部生対象
レクチャー第2回<日本民家の造り方と特徴>ビデオでの紹介
2000.07.17 siem reap, jsa officeで
通訳:CHEA SOPANHA 氏(JSA)
前回は、どこにでもある民家、という文化財の保存と、その利用について、お話しましたが,今日は前回スライドで見た民家の、工事記録ビデオを見ていただきます。
今日見て頂く工法は、現在の日本の家造りでは、あまり使われなくなった工法で、文化財の補修などで多く利用しています。この民家のように新築で工事することは珍しいことですので、記録を残す目的で撮ったものです。
建物の作り方には、簡単に安く作って、建替えや手入れを細かくする場合と、お金が掛かっても長期間耐えるように作る両方のやり方がありますが、(もちろんその中間もある)日本の民家は後のほうで、木造でありながら、150年、あるいは長いものでは300年もの寿命を持っています。これは一つには前回お話した里山の考え方に基づいておりまして、材料を自給するにはそのくらいの時間が自然のサイクルと合っていたのです。それで一度作ると大切にして、長期間利用するわけです。例えば、築後数十年の家が新しく建替える場合には、それを他の人が買い取って別の場所に移築する、というやり方も一般的に行われていました。ある地区の調査では、判っただけでも約20%もの家がそのような家で、移築されてから出さえ100年近く経っているものが多くあります。それほど耐久性のある家を作っていました。
また、日本では夏と冬があります。夏はカンボジアに近いくらいの暑くなりますが、冬は一面雪が積もるほど寒いですから、その両方の居住性に耐えられる仕組みを、身近にある材料で組立てています。
以上のような前提で今日のビデオを見てください。
木工事:これは梁材を加工しています。チョウナという道具で梁を8角形に削り出しているところです。どんな曲がりくねった材でも使えるようにした工夫で、上面と下面は常に水平、縦の両側は垂直にして、柱ざいや他の梁材とうまくジョイントできるようにしています。
古色塗装は文化財修復の一つの技法です。古い木造の建物修復で新材をいれる場合目立ちすぎないようにする塗装法です。ここでは防腐材を兼ねて塗装しています。
この家では木のジョイントのディテールを20種類くらい使っています。前回も説明したように構造体の組立てには釘を使わず、栓という木の棒を差し込んで締め付けています。ボルトなどの金物が絶対最強だと思っている人も多いですが、木材の乾燥状態と金物の性能を良く知って使わないと、木材が縮んでボルトがゆるゆるになってしまう例が多くあります。これは古い建物を解体してみるとわかることです。
また、木を加工したジョイントを使っていることで、解体、再組み立てが可能です。
この家でも材料は自給が原則ですから、木材の種類は比較的少ない。杉、、けやき、松、栗この4種類できている。この地域では他にクヌギも床下構造材に使っていましたが、手に入れずらいので栗材に振替えました。手の触れるところでは、杉,けやき、まつの三種類だけで出来ていて現在の家に比べると、非常に少なくなっています。
一番腐りやすいのは、土台と柱の根元です。土台は床組みのないタタキ廻り柱下に取り付けてあり、使用部位全体が腐りやすいので、近くの山にある最も腐りづらい材料として栗を使っています。床組みのある範囲の柱は、礎石まで伸びていますので,この部分も腐りやすくなっています。柱に使っている杉材はどちらかいうと、腐り易い材料でが、赤味の樹芯まで腐る事は少なくなっています。そこで杉の柱は全て赤身材をつかってます。
この家の大工さんの掛かった日数は延べで約900人工。ちょうなはつりが40人工、構造組み立てまでが500人工、仕上げが350人工となっています。仕上げ造作量は少ないのですが100年以上使うためそれほどの手間をかけています。この建物の木材使用量は約40立方メートルです。
日本では地震,台風がありますので,丈夫な構造でなければなりません。床の構造は、70cmほどの高床構造で、床下にも大きな梁を入れて支えています。新しい住宅は壁にブレースを入れて支えているが、伝統的民家では、建具ばかりで壁が有りませんから、床下にも屋根と同じくらいの梁を入れています。
屋根工事:使う茅材を採った山に見学に行っている所です。ススキは秋、11月ごろに刈りとって翌年の夏まで乾かして使います。
屋根材料の選定は日本の夏、冬という両方の季節をカバーできる機能を持ち,しかも自分の地域で採れる材料で長持ちするものを選んでいました。屋根材は断熱がまず求められるためこの家のように厚さが45センチもあります。熱の蓄積量、熱伝導率が小さく、夏は直射が照りつけても屋根面からの輻射熱がない、涼しい状態を保っています。
草葺に使われる材料は、かや、よし、わらの3種類が多く使われていましたが、どの材料を使うかは、自分の地域で取れる材料に決まっていました。一番多いのがススキで、村で管理していた茅場というススキの畑を持っていました。川や湖に近い村では、水際に生えるヨシを使っていました。これらは40〜50年の耐用があります。またこのどちらかも十分採れない地域では、わらを足して使っていました。わらが入ると耐用年数は半分くらいになります。
伝統的に屋根葺き工事は専門職の仕事では無く、自分たちの行っていた仕事です。材料の刈取り、屋根葺き工事は家族だけでは出来ないので、,村の共同の作業として行われていました。工事の取組みは、現在、地域の共同作業としては無くなってしまいましたが,文花財等の需要があり、専門職として維持されています。
この屋根葺き工事は、下地竹工事80人工、茅葺き300人工、棟造り・刈込み100人工、計480人。材料は4トントラックで12台積んできました。
家の中のカマドやイロリで火をたきますが、これは草屋根を長持ちさせる為に必要なことです。伊勢神宮という神殿がありますが、その研究者に聞いたことを紹介したいと思います。,まず、草葺屋根では、日当たりの悪いところや、屋根の中まで水がしみ込む場所に、カビが生えます。そのカビの有るところに、カブトムシが幼虫を生んで、それを食べるそうです。その幼虫は丸々と太ってい大変美味しそうですから、ねずみのご馳走になります。ねずみが増えると、これをいたちが食べにきて、もう、草葺屋根がメチャクチャになっちゃうそうです。ですから,カビや虫が住まないように火を焚いていぶしてやる必要があるのです。このため、住まなくなった家は、すぐに屋根がだめになって崩壊するのです。
左官工事:壁の下地は60cm間隔で縦横に穴を明けて竹差込み、更に細かく竹を組み込んで縄で縛りつけます。とても良く馴染みますので下地が剥離してくることはありません。竹が無い地域では小枝や板で作っている場合もあります。
壁の材料も屋根と同様に、断熱性能が必要です。その機能を満たしてどこにでもあって、最も安い材料として、土が選ばれています。材料は砂質粘土と稲藁を混ぜて使いますが、仕上げに近い部分では、土は砂量を増やし、わらは短く柔らかくしたものを使います。
壁塗り工事に先立ち、材料の準備をします。ここでは約3ヶ月前から土と藁をこね始めました。そして、だんだん短いすさを加え、3回ほどこねます。この期間を長く取ると、よく熟成し、わらと土が一体となって、塗り易く、ひび割れしずらい仕上げができます。カンボジアの土壁をチヤさんにお聞きしたら土に牛の糞を混ぜて使うということでしたが、同じ効果を狙っているのではないかと思います。
たたきの材料は、赤土、砂利、石灰、セメント、塩化カルシウムを混ぜ、ハンマーのような工具で叩いて作ります。一度に厚く打つと締りがゆるく弱い仕上げになりますので,厚く作る場合は5cmの厚さで何回か重ねて仕上げます。この仕上げは地中の湿気を吸上げたり、水分を吸収したりして土間スペースの調湿作用をしています。
かまどは,ドラム缶などを型枠にして、その外側にわらを立て水分の少ない団子状にした土を打付けていきます。このカマドでは強度が出るように各団子のてっぺんに古瓦を練り込みながら積上げました。
前回お話しいたしましたように肥料の灰を取る時代の復元をしていますので,カマド床面を30cm下げていますが,この原型となっている民家の調査書では、最後の竈はタタキ床と平らになっていましたが、その下に、深さ50cm位まで何層もカマドの後が発見されています。ですから調査時にはもう肥料を取る必要が無くなっていたので掘り込みが無くなっていたのだと思います。
左官工事に掛かった日数は竹下地30人工、塗り壁138人工、たたき43人工、かまど・いろり15人工合計約225人工となっています。  <終>
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