茅葺き屋根の維持管理
■メインテナンス工事の工法
茅葺き屋根のメインテナンス工事には、軽微な方法から並べると次のような工法が挙げられる。
(工法名、材料等の呼び方は、地方により異なるため、ここではこの工事で使った名称を用いる)

A.苔落とし:
表面の雑草や苔を取り除く。傷みが深くない場合は茅の引出しはせず、鉾竹もいじらない。
B.差し茅:里山民家の差し茅参照
水切り茅より上部を工事範囲とする。腐朽が激しい茅は抜き取り、腐朽が軽い茅は引出して腐朽部位を刈取る。(腐朽部の刈取りで鉾竹から茅先端までが短くならないよう、引出しが必要となる)間隙部や緩み部に切り茅を差し込み、ガンギで叩いて屋根勾配に合わせる。茅抜き取り時に、押し鉾竹まで抜け出す場合は、鉾竹の交換、追加、縄の絞め直しを行う。
C.丸葺き:→ 葺き方
軒付け部はそのまま使い、押鉾竹の絞まりを取り直し、そこから上部を押鉾単位で、解体、葺替えを繰り返し葺き上る。素屋根は架けない。(軒付け部は良い材料と十分な手間をかけているので、取替サイクルが長い。)
D.棟造り:
既存棟飾りは杉皮まで撤去し、天竹、化粧竹、シゲ、簾竹、杉皮を取り替える。
E.葺き替え:
全ての茅を撤去し垂木など下地の悪い部分を修理し、葺き替えをする。素屋根が必要。

以上、5段階ほどに分けられるが、劣化状況に合わせ工法を選定し、B,C,D,は工区を幾つかに分割して修理工事を行う。

■メインテナンス工事の間隔と費用
差し茅工事は一般的に『苔落とし』+『差し茅』の二工程の組合せで行う。テナンス間隔が短いと差し茅は軽微に済み、長くなると期間比率以上に大きくなる。傷みが目に付きだしたら、直ぐに修理工事をしたい。一般的に工事見積の有効期間は、仕入値の変動に備える目的で決めているが、茅葺きの場合は工事内訳にも備えている。状況によっても異なるが、1年、2年の間に劣化が急速に進んでしまう場合があり、参考見積は、有効期限に注意されたい。いつの時点の見積かで茅葺き屋さんは苦労するという。維持管理に掛る長期間ののべ費用は、差し茅回数を減らせば少なくて済みそうだが、一概に、そうはならない。茅葺屋さんのお勧めは、苔落としが主な工事となるようメインテナンス間隔で行うというもので、手入れが行き届いていながら総費用は少なくて済むのだそうだ。 差し茅のローテーションは約8〜10年に1回であるが、多くの場合、1回のローテーション範囲を幾つかの工区に分け、東西南北の面毎に行ったりして、順次、差し茅を行う。それは、次の理由による。

@ 茅葺きの劣化の速さは部位によって異なるので、大修理に発展する前に状況によって対応できる。
A 工事範囲が広いと工事費の工面が大変で、茅材、茅職人の確保も難しくなる。反対に小さければ手当てが容易である。

但し、ここで言う工事費は、茅葺工事費だけであり、葺き替えの場合、雨が屋内に入らないよう素屋根を設ける事が多く、その場合、別途、大きな費用が必要となる。差し茅・まる葺では、葺き替え中の風雨にも漏水はない。今回は12年目の工事で、差し茅比率は比較的多くなった。

メインテナンス工事の材料 茅材(すすき)について
茅場は田畑と同じく里山景観の一つであり、人手の入った二次自然草原である。山や道ばた、どこにでもすすきは生えているが、そのようなものを拾い集めていては、非効率であり、材質も悪い。伝統的には、毎年、草刈、火入れをし、その年に育成したすすきを毎年刈り取る。今でこそ、共同体共有の茅場は少ないが、生産方法は変わらず、樹木のないススキ草原を維持管理し、そこから収穫する。
茅材はどれも同じでなく、材質に良し悪しがある。真っ直ぐ、長く、丈夫なススキは、前述のように管理された茅場で、〇地味の良い土壌、〇前年の古茅が混じらない茅場の手入れ、〇稲の豊作年に当たるような良い気候、など条件が揃って良質のススキが育成される。すすきはイネ科ススキ属の多年草で、同じ種族、イネ属の稲の不作年は、ススキの育成も悪いと言われる。凶作年で諸条件が整わない茅場で育った茅で葺くと寿命が短いという。
茅葺屋根の維持管理:工法の種類
鈴木啓二/建築設計社のホームページ
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