鈴木啓二/建築設計社のホームページ
入家住宅の地域的特性 民家の観かた9:座敷・かって廻り
F.ざしき・かって廻り
座敷といっても畳の間ではない。この家の中心にある一番大きな板の間の部屋で、家族団欒や仕事の場であった。また、夜や寒い季節は日常的接客空間でもあった。
■いろり(このあたりではユルリといった):旧宮鍋家住宅は解体調査時点でイロリは残っていなかったが、床下調査でいろりの痕跡を発見した。その位置と大きさを根拠に、この民家のイロリを作っている。内法寸法は3尺×4尺である。昔、イロリの廻りに座る時は位置が決まっていたことは良く知られている。奥の間側が主人の座る席で横座という。地方によってはヨコザは部屋名を指すことがあるが、この座席の呼び方が全国的呼称で、その他三方については地方により、呼称がいろいろと変化している。ヨコザ(横座)の隣で大戸口から遠い席はカカザ(女座)といい炊事や家事を預かる女衆が座る。横座の隣、大戸口を背にしたオトコザ(男座または客座、竪座ともいう)には客や長男が座って、土間側はキジリ(木尻)といって一番下座である。これらを封建的取り決めと見ることもできるが、歴史書によっては生活機能に根拠を置いたものと考える研究者もいる。それは経験豊かな主人が、家畜の様子や明日の仕事を考えながらダイドコロを見渡すのに相応しい位置であり、カカザは炊事場に近い位置で、薪をくべるのにも良い位置で、オトコザは客の動線として最も自然に座り易い席であるからだ。 イロリの中央に天井から自在鍵を下げ、湯を沸かしたり鍋をかけたりする。夜鍋とは食べ物や食器を指すのではなく、仕事をすることをいうが、辞書によっては『電気のなかった時代、夕食後、この廻りでする仕事が語源である』という説は納得しやすい。(下欄:お触書参照) 遅くまで仕事をしておなかが減ったところで鍋を囲むのであろう。また、ここには設置していないが、雪国ではイロリの上に格子で作った火だなを吊るしている。これは雪や雨にぬれた衣服を乾かすために取り付けているものである。
■神棚・仏壇:旧宮鍋家住宅の痕跡調査では、建築当初の神棚は中二階との境壁を背にして南向きに吊られていた。仏壇は神棚の下で同じ柱間のなかに戸棚が造り付けられ、上部が仏壇、下部が戸棚であった。宮の入民家では整備として棚板と置き戸棚に代えている。
G.奥の間、デイ廻り
■座敷(接客の間):カッテが仕事と生活の日常空間であるのに対し、この部屋は非日常的な接客を主にした空間である。冠婚葬祭の使われ方、席順などが格式化して、この家では格付けが一番高い部屋である。日常的入口は大戸口であるが、儀式などでは、庭からここへ直接入る。武家住居や名主六つ間型住居は(養蚕六つ間は遅いが名主六つ間は早い段階で発生)庭がわに独立玄関が設けられている。それ故、民家では、それに習ったと思われ、広間型、四つ間型民家でも儀式での正式入口は大戸口から一番遠い縁からか、座敷の縁から入るかである。 古い民家形式では奥の間の位置がへや、又は納戸と呼ぶ閉鎖的な主夫婦の寝室であったが、非日常接客空間になった後も、主夫婦の寝室はここであった。旧宮鍋家住宅ではデイの西側に南寄りに押入れがあったが、整備として無い形に変えている。(主屋で形態を変えているのはここだけであるが、砂川新田の喰い違四つ間民家にもこの押入れがない同形態がある)
■部屋の格付け表現:旧宮鍋家住宅では、土間・座敷境、座敷・デイ境の線で3つにわけると、格付け表現が明快である。建築の仕上げ、しつらえが部屋の格付けが上がるに従って上等になる。床の仕上げは土間〜板張り〜畳、壁は土壁〜土壁〜漆喰、天井はなし(屋根裏タナ表し)〜なし(屋根裏タナ表し)〜竿縁天井、建具は、なし〜板戸〜襖、しつらえとしてはデイ、奥の間の順に欄間、床の間と飾り付けを加えている。
■天井:この二室だけが天井を設えている。形式は竿縁天井で小幅の杉板張りで見付け巾は7.5寸である。杉材はこの板が最大径でケヤキ、松に較べて、小径の材だった事が分る。天井高は10尺(座敷などタナ表し部は12尺)で今の住宅に較べると2尺程高く廻縁も高さ2寸と大きい。
■欄間:名主住居の書院障子組子から較べると、奥の間とデイ境の欄間は一見ただの格子で、とてもに簡素である。ところが良く見ると非常に手の込んだ地蔵格子という納めをしている。木を竹篭のように編みこんだ組子になっていて、どのように組み込むのか外見では分らない。身分相応が厳しい社会で隠れた洒落をしているのであろう。

地蔵格子の欄間
慶安のお触書:幕府による夜鍋の奨励
朝おきを致し、朝草を苅(か)り、昼には田畑耕作にかかり、晩には縄をなひ、たわらをあみ、何にてもそれぞれの仕事油断なく仕るべき事。
=朝は早く起きて、雑草を刈(か)り、昼の間に田畑を耕し、晩にはなわをない俵を編み、すべての仕事を気をぬくことなく行え。
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